志摩子さん

夜中に目が覚めて、慌てて夢をメモする。今夜は物語仕立てだった。

洋館に住む老夫婦が僕らをもてなしてくれている。志摩子と呼ばれる品のいい奥様と、昔勲章をもらったと自慢げな旦那様だ。面倒見の良さは、この方達がそれ程裕福でなくても行うんだと思えるくらい板についている。

「このところ、敵国の侵攻も激しく、この辺りも安全圏内とは言えませんよ」と、忠告をするものの、「この辺りは、行くも引くも、人々が疲れる頃合いの立地だから、お茶のひとつも出してあげたい」と、答えにもならない言葉をこぼされされる。

外が騒がしい、僕はズシリと思いロケットランチャーを抱えながら飛び出す。空を行くのは敵国の飛行機だ。爆弾を落とされる前に撃ち落とす。海の上で撃ち落とす。
ひと息ついた頃に引き返すと、洋館は跡形も無かった。爆破されたのではなく、最初から無かったかのように無かった。

ざわめきを感じて後ろを振り向くと、多くの人の声。上陸されたのかと、ランチャーを担ぐがなぜか軽い。ざわめく方へ威嚇しようとトリガーを引くけど、発射されなかった。慌てて前を向くと、ざわめく声は聞き覚えのある国の言葉だ、笑い声も混じっている。争いは終わったのか、今しがた撃ったランチャーの反動が残る身体と脳は混乱している。
歩いてくる人たちと軽く会釈をし、すれ違い様に振り返ると、洋館のあったあたりに瀟洒な建物が見える。フラフラと群れの後ろに付いて歩く。

建物は洋館のあったあたりに建っていて、誰でも入れるようだ。お茶のサーバーがあって、なんかの陳列棚も見える。どうやら、勝手にお茶を飲んで休憩できるようだったけど、奥に居た老人に目は釘付けられた。90は超えていそうな老婦人がちょこんと椅子に座ってコチラを眺めている。
微笑みは志摩子さんだ。白髪の数とシワの数は遥かに増えていたけど、微笑む目尻は変わらない。
よろけて、陳列棚を見て、声を上げた。旦那様の白黒写真の横に自慢げな勲章が飾られている。

これは、夢かも知れない。
時空を超えたのかも知れない。
でも、そんな事は、どちらでもよくて。
僕は、驚くより嬉しかったんだ。

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