父の白黒写真の裏には、還暦を迎えた僕が生まれた日よも古い日付が鉛筆で書いてある。
添え書きは「波の上にて」
[とんぼ]と書かれた小さな漁船のヘリに腰掛け、カメラに向かって笑っている。
波上宮に参拝した後に、ビーチに降りてみる。父の写真が撮られた場所を探してみようと思う、手がかりは背景に写る、人の横顔のような岩だ。漁港がビーチに変わり果てても、この岩は変わらずにいるに違いない。
限られた時間内に『昔』にたどり着けるかどうか分からない、不安と期待をチャンプルしながら、70年近く前の写真を手に浜辺に降り立つ。
あ。
あれ?そこに見えた岩の形に覚えがある。
手元の写真を見る。
あれ?
見つけた、もう見つけてしまった。
探す苦労も時間を気にして焦る事もないまま見つけてしまった。
感動には多少の労苦は必要だと思った。
親父が写真の中で笑う。