数年ぶりに古酒の甕を開けたら、何か浮いていた。10年くらい前に一度カビのようなものが発生したのを思い出してゾッとしたが、その時のように大量ではなかったので、濾すことにした。コーヒーフィルターの上にカツオを濾すフィルターもつけ、徐々に移し替えていくと、芳醇な香りの泡盛が透明な容器に溜まっていく。表面には何も浮いていない。
試し呑みたい気持ちを「夜まで我慢」と抑えながら、洗浄した甕に戻していく時に、三合ほど小瓶に残しておいた。本当に「美味い泡盛」の香りが鼻腔をくすぐるけれど、車の運転が控えているため、少しこぼれた時に濡れた指を舐めるに止まった。
甕に蓋をし、フィルターを片付けようとした時に、フィルターに黒いものが残っていることに気付いた。
埃?カビ?
?髪の毛? 何、黒い粒? ムシ?
無かったことにして、フィルターを捨てた。
もうすぐ、晩御飯だから、スパムをあてに小瓶の泡盛でも飲もう。
「死ねへん、死ねへん。度数高いから消毒されてるわ」
僕は呟きながら、見た記憶にも蓋をした。