昔をさんぽした波の上

父の白黒写真の裏には、還暦を迎えた僕が生まれた日よも古い日付が鉛筆で書いてある。
添え書きは「波の上にて」
[とんぼ]と書かれた小さな漁船のヘリに腰掛け、カメラに向かって笑っている。
波上宮に参拝した後に、ビーチに降りてみる。父の写真が撮られた場所を探してみようと思う、手がかりは背景に写る、人の横顔のような岩だ。漁港がビーチに変わり果てても、この岩は変わらずにいるに違いない。

限られた時間内に『昔』にたどり着けるかどうか分からない、不安と期待をチャンプルしながら、70年近く前の写真を手に浜辺に降り立つ。

あ。

あれ?そこに見えた岩の形に覚えがある。
手元の写真を見る。
あれ?
見つけた、もう見つけてしまった。
探す苦労も時間を気にして焦る事もないまま見つけてしまった。

感動には多少の労苦は必要だと思った。
親父が写真の中で笑う。

首里琉染で、さんご染体験してきた。

本物の珊瑚を型に色付けしていくさんご染。
店員が丁寧に教えてくれるので、未体験の不安もなくTシャツに色を入れていく。
だけど、比較的器用だと思う僕も妻も同じセリフを叫ぶ事になった。

「えええー、もう10ふん前」

ああしたら良かった!こうしたら良かった!
も、同じセリフです。
サイズが大きめなのも、同じセリフ。
次は、もっと上手くできる!
も、同じセリフ。

四島制覇

海中道路の先にある島を訪れた。
伊計島  最奥まで走らせて大泊ビーチに向かう。駐車料金が必要だと言うので、泳がない僕らは入るのをヤメタ。
宮城島  ここにはヌチマース工場がある。試食を勧められたら買う。尿酸値を下げると言うから買う。内地で販売していないと言うから買う。久高島から流れ込む龍のパワーは妻の財布の紐を緩めるチカラがあった。
平安座島  岸壁アートの先に小さな公園があった。トイレ休憩のつもりが浜辺に立ち、誰もいない海辺で波と戯れた。駐車料金のいらないビーチで海中カメラを試せた。ズボンがびしょ濡れになる。
浜比嘉島  最高だ。開祖の神を訪ねてみると二柱が別々のお墓でない事に安心する。
もずく売りのおばさんとの会話を半時間も楽しんでしまった。

制覇した。
事にしよう。

オキナワにて

那覇空港に着いた。
波の上営業所なんて初めてだ。
海が美しい。
刺すような日差しじゃない、燃えるような日差しだ。
スコールは打ち水だ。
湿度に色が着いていたら、前が見えないくらい。
氏神さんにご挨拶。
ご先祖の元墓にご挨拶。
妻に改めてご挨拶。

前川守賢がパーソナリティのラジオ番組。
ホテルの部屋に流れるRBCのニュース。
インタビューされるヒトの沖縄言葉。

嗚呼、退職したんだ。
初めての夏の沖縄。

それ今言う!

僕は長風呂だ。ぬるめの湯に浸かりながら、prime Videoやゲームをしている。だから、すぐに1時間くらい経過してしまう。
何を見ようかと、ビデオを選んでいる時だった。

バタン!

勢いよく浴室のドアが開き、そこに妻がたっていた。
「この服の下やねんけど、ジーパンか黒のズボンかどっちがいい?」
旅行に着て行く服で悩んでいるみたいだ。
僕の意見に納得したようで、脱衣所のドアを閉めて向こうに消える。浴室のドアは開けっぱだ。
まぁいいか、ほとんど水風呂だし、浴室に湯気もない。浴槽に沈んだ時に妻が現れた。

「このパンツやったら、どっちがええと思う?」シャツだけでなく黒いズボンに変わっている。それやったら、オレンジ系の見えシャツにして、下は白っぽい方がリゾート感が出るよ、なんて意見を受け入れて、呟く。
「じゃ、これ2日目な」

隙間から覗く廊下に、次の服がスタンバイしてる。サルエルパンツは綿を羽織って部屋着にすれば、とか、その上からストール巻いたら縦のラインが出てオシャレ!とか、言うんだろな。
「じゃ、上の感じを変えて3日目イケるね、でもホテルに戻ったら、だらっとした服に着替えたいなぁ」

脱衣所で次々に着替える妻の向こうに、もう、閉めなくなったドアから積まれた服が見える。
良いけどね、忘れていないかな?
僕はマッパだよ。
浴槽に浸かっているよ。
「この服やったら、この前、買ったサンダルで良いよね?」
良いと思う。

脱衣所で着替えながら妻は聞く。

でも、

『それ今言う?』

ボウリング大会と呼べる規模ではないけれど

数年前に同じ部署で働いていたメンバーとは、良くボウリングをした。少しばかし上手かった僕のコーチングは好評でメキメキ腕を上げる仲間達と勝った負けたのやり取りは、ただただ楽しかった。
ところが、世話役が東京に転勤した途端に集合回数が激減し、追い討ちをかけるようにコロナ禍が広がった。

つまらなかった。

社内ボウリング大会も3年続けて中止になり、僕が優越感に浸れる機会が奪われたまま退職した。惜しかった。

そんな僕のちっぽけさを知る仲間たちが、東京から帰省中をトリガーに参加を呼びかけたのが昨日の事。

楽しかった。

大きなお世話のコーチングに笑顔と控えめな歓声。立つ位置と狙いのスパットを教えた直後のストライク。おじさんも思わずハイタッチ。聞かれるのも嬉し楽し。
ふと気づいたら、皆、僕より高得点だった。