キッチンマットは案外おもい

システムキッチンの床に敷いているキッチンマット。踏み心地と言うか、台所仕事の疲れを軽減してくれるような弾力が足裏から伝わってきて重宝している。
汚れも目立ってきたので洗う事にした。
妻が。

ところが、意外に重い。適度な弾力のために肉厚もあって、布製のマットのように片手で持てるような代物ではない。僕でも、そうなんだから、妻はなおさらだ。
頑張って洗ったマットが外に干してあった。
気を利かせて運ぼうとしたら、掴んだ親指に水が滲む。なんて乾きにくいんだ。
結局、一晩干して、翌日、僕が乾いても、なお重いマットを玄関に放り込んでおいた。

程なく、車内で妻からのメールを見る。
敷いた後、床を濡らすマットの写真付き。
ひと晩では乾かなかったのか!

優しさが必ずしも、相手を楽にする訳ではないと言うお話でした。

妹の誕生日

僕の妹の誕生日だ。
おめでとうメールをしたけど、スタンプでは「ありがとう」って、笑っているけど、いつもならアル台詞が続いていない。

年齢まで、しっかり書かない方が良かったのかも知れない。

義父が逝った日

一週間前に義父がこの世を去った。

5月に尿路感染による発熱でひと月ほど入院してから、瞬く間に身体は衰退した。
元々、スポーツマンで90歳を迎えても自転車に乗れた身体は自力で歩けないほど弱ってしまった。
車椅子に乗ってからは、色々なものに対する意欲を失ったようで、自分から発言する事が目立って少なくなった。だんだんと食欲も無くし、筋肉質だった足も痩せ細り、ベットに横たわる時間が増えてきた。

そんな時に、施設で発生したクラスターに巻き込まれて、さらに半月の入院を余儀なくされてからは自力で身体を起こす事も、食事を摂取する事すら出来なくなってしまった。
陰性となり施設に戻ったけれど、生命力が一気に失われたのは誰の目にも明らかだった。

数日のうちに父は逝った。
救いは、少しも苦しむ事なく、安らかな最期だった事だ。遠方に居る義兄も間に合った、孫もひ孫も間に合った、親しい親戚も間に合った。人の望みは叶うんだ、望めば叶うんだと感じてしまった。計りようもない程、徳を積んだ義父だからなのか。

お通夜、お葬式、初七日。淡々と済ませていく。父は解放された。
もう身体は痛まない。
また、歩ける、走れる。
父は、もう自由だ。

太陽が別人だ。

沖縄はもちろん暑かった。
南国だ。
燃えるような太陽が命を奮い立たせる。
大阪も暑い。
でも、ガジュマルの木もシダの木もない。
刺すような太陽に命を削られるようだ。
まるで、太陽が別人だ。

免許証の更新

朝からシャワー浴びて鏡をみた。
2週間も伸ばした顎髭が気に入っている。
運転免許試験場で撮る写真のために髪の毛を洗いセットする。
髭は?どうする?
メガネや帽子はともかく、ヒゲはどうなんだろう?剃れとは言われないだろう。
剃らないのか?
向こう5年間は顎髭があるぞ!
カッコいいじゃないか!
サラリーマン時代に絶対に許されなかった免許証になるぞ。

2分後に剃っていた。
Tシャツもワイシャツに着替えた。

何かに負けた気がしたが、白ヒゲは意外にカッコイイけど、何か年取って見えたから。
それより、だいぶ前に後部座席のシートベルト不着だけで、ゴールド免許証で無くなっていたのがショックだった。
青なら髭も剃らなかった!
なんて、思ってしまった。

それ今言う!

僕は長風呂だ。ぬるめの湯に浸かりながら、prime Videoやゲームをしている。だから、すぐに1時間くらい経過してしまう。
何を見ようかと、ビデオを選んでいる時だった。

バタン!

勢いよく浴室のドアが開き、そこに妻がたっていた。
「この服の下やねんけど、ジーパンか黒のズボンかどっちがいい?」
旅行に着て行く服で悩んでいるみたいだ。
僕の意見に納得したようで、脱衣所のドアを閉めて向こうに消える。浴室のドアは開けっぱだ。
まぁいいか、ほとんど水風呂だし、浴室に湯気もない。浴槽に沈んだ時に妻が現れた。

「このパンツやったら、どっちがええと思う?」シャツだけでなく黒いズボンに変わっている。それやったら、オレンジ系の見えシャツにして、下は白っぽい方がリゾート感が出るよ、なんて意見を受け入れて、呟く。
「じゃ、これ2日目な」

隙間から覗く廊下に、次の服がスタンバイしてる。サルエルパンツは綿を羽織って部屋着にすれば、とか、その上からストール巻いたら縦のラインが出てオシャレ!とか、言うんだろな。
「じゃ、上の感じを変えて3日目イケるね、でもホテルに戻ったら、だらっとした服に着替えたいなぁ」

脱衣所で次々に着替える妻の向こうに、もう、閉めなくなったドアから積まれた服が見える。
良いけどね、忘れていないかな?
僕はマッパだよ。
浴槽に浸かっているよ。
「この服やったら、この前、買ったサンダルで良いよね?」
良いと思う。

脱衣所で着替えながら妻は聞く。

でも、

『それ今言う?』