時折、朝に見かけるお年寄りがいる。おばあさんだけの日もあれば、ご夫婦で玄関先に立っている日もある。
いつも、200mほど先の国道を向いている。
見た事のある風景だった。
まだ、父母が施設に入る前に、デイサービスのお迎えの車を玄関で待ち遠しく待っていたっけ。僕らと車で出かける時は、辻までおじいちゃんが覗きに来てたっけ。
国道から入ってくる車を待っているんだと、今日まで思っていた。
違った。
よく考えれてみれば、7時前に迎えの車は早すぎる。微妙な時間差で気づくことができたのは、前を行く男性が国道に達する直前に、振り向いて手を振った時だ。
黒いTシャツに黒ズボン、リュックも黒で半袖から覗く腕も褐色だ。中年とは言えないが、学生は終えたくらいの若者だ。
彼を見送っていたんだ、家から国道を曲がるまでの200m、「行ってらっしゃい」の後に続けて。
たぶん、傍らのおじいさんが働いていた時からの習慣で、恐らくお孫さんを見送っているんだろう。
理由は知らない。
でも、黒づくめの男性が振った腕は、200m先からでも、ハッキリわかるくらいに大きく左右に揺れていた。